第29回 養われる社会性~山梨学院大の取り組み(下)
10月のある日、山梨学院大現代ビジネス学部の小西順人教授の研究室に、3年の張京京さんが訪れた。就職活動を始めるに当たってアドバイスを得るためだ。
張さんは中国黒龍江省出身。高校から山梨で生活し、おば夫婦が営む中華料理店でアルバイトをして、学費などを賄っている。日本での就職には何かしらの資格が有利だとじ、勉強を続けている。どんな勉強をしてよいか分からない状態の時、資格に向かったという事情もある。しかし小西教授は「目指す分野がはっきりしていてそれにマッチする資格ならよいが、関係ないのはあまり意味がないのではないか」と、資格万能主義に否定的だ。
社会への関心は人一倍強い。高校2年生の時は弁論大会に出場、「友好の架け橋」をテーマにして優秀賞を獲得した実績もある。就職も貿易、旅行関係など中国語と日本語を使いこなし、世間を広くする業種に進みたいと考えている。そのために新聞は大事だと認識している。「日本の新聞は縦書きで読むのが難しい」というが、大事な情報源だ。国際交流センターにある中国語の新聞でも情報を得ている。
中国では「若い人たちは地域の新聞をよく読んでいる」そうだ。小西教授が「新聞を読むことによって想像力や感性が養われるというメリットもある」と説明する言葉に、張さんも大きくうなずいていた。
同教授によると、学生たちは入学するとき一度新聞に関心を向け、中断後3年生の就活時期にまた読み出す。蓄積が必要な社会情報は短時間では身につかないわけで、後悔する事態を迎えるケースが多いという。メディアとビジネスの講座ではそのことを強調していたこともあって、今では新聞を身近に置き「新聞記者になりたい」「テレビ局に入りたい」と、マスコミ志望者が増えてきたという。
長野出身の飯山佳奈さんもその一人。以前は警察官を目指していたが、番組作りの現場を見てテレビ制作に関わりたいという希望を持っている。本を読んだり、絵を描いたり、音楽を奏でたりするのが好きな飯山さんは、時々小西教授を訪ねてはマスコミ志望のモチベーションを維持しているようだ。
小西教授は「専門科目への導入として新聞を薦めてきたが、あらゆる方向にいい傾向が生まれいる」と、胸を張った。