第17回 思い思いに楽しい絵筆
線が基本とのことで、小筆の先端を持ち縦、横、丸を描いていく。線質の面白さを出すために順筆、逆筆を織り交ぜて細い筆先に集中する。
次は因州和紙に、稲穂を束にした即席の筆で淡い模様をつける。渇きを待っている間、別の茶紙に「春」「祝」などを大書して余白に思い思いの言葉をつける。「春 お姉さま 穏やかな毎日でありたいですね」-仲の良い姉妹が健康であることを願うのか。「春 うらら 私が乙女心にもどる時」-いつまでも初々しいおばあちゃんだ。「ポカポカとあたたかい春が来たよ 待ちどうしかったね」-孫と一緒にまぶしい陽春をいっぱい浴びる姿が目に浮かぶ。
因州和紙が乾いた。模様に邪魔にならないように「春の小川は さらさら行くよ・・」と逆筆で書き込む人も。
最後は雨宮みつ子さんの創作筆が登場。ほうきを短くそろえたもので、たっぷりと墨を含ませて力強さと渇筆が混在。大樹の枝を描きそれに顔彩で小さな花を咲かせて「大器晩成」と書いたり、富士山を太書きして「日本一」と表現した作品も。
「ぬくもり」は6年前、甲府市社会福祉協議会が呼びかけて発足した。お年寄りなどに配食サービスをする際、絵手紙を添えてあげたいという配慮からだった。
会長の井上多久美さんは「暑中見舞いの作品を届けると、次の年賀まで飾っておいてくれる人もいます」と、お年寄りにはたいへん喜ばれているようだ。
メンバー同士や友達との絵手紙交換で「いただくと何回も読み返したり、飾ったりします。自分が嬉しいことは他人も嬉しいのだと思い、プレゼントにもちょっと添えるようにしています」という声に一同うなずく。中には家族の結婚披露宴に、自ら創作したランチョンマットを使ったケースもあり、手製のぬくもりが広がっている。
実際のはがきを彩る作品でも思い思いに楽しむ。描かれたスイカは売れ残りなのだろうか「半額でもおいしいよ」、太ったおひなさまには「苦しいよ 来年までにはやせてよね」。2枚セットで、半分のフキノトウの絵に「春の」、残り半分に「芽ぶき」がつながって1フレーズになり、受け取るほうはそろってはじめて意味を理解するという遊び心も発揮される。
それぞれの作品について「素晴らしい」「その発想、ユニークね」など”品評会” はにぎやか。「どうしてそんなに楽しいのですか?」と聞くと、「先生のお人柄で~す」とみんなの声がそろった。