第24回感謝の気持ちを体いっぱい表現

 18世紀後半アメリカで、アフリカからの奴隷が言語に絶する辛い迫害を受け、神にすがって歌った音楽。ゴスペルはGod spell=つまり神の言葉、福音だ。奴隷たちはアフリカで音符を読むすべもなく、コール アンド レスポンスといって畑仕事をしながら歌でコミュニケーションを図っていたのだという。
 平野鏡子さんは8年前、「肩の力を抜いて何かやりたい」と思っていた時に、ゴスペルに出会った。日本での第一人者といわれるラニー ラッカーさんが英和短大(現英和大)の招きでワークショップを開いたという新聞記事を読み「もともと歌は好きだし、楽に入れそう」と『フォーギブン シナーズ』で練習を始めた。

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 「大きい声を出せばいい。手拍子や英語も難しくなさそう」と思っていたゴスペルはとんでもなく奥が深かった。「まずリズムについていけない。私たちが若いきにはなかった後取りのリズム。今の人たちには体内リズムが出来上がっているんですが。それに英語の歌詞を覚えられない」。それでも続けてこられたのは、「フォーギブン シナーズ」を指導する岩下真由美さんがゴスペルの持つ魅力、楽しさを体感させてくれたからだ。岩下さんは「まず表現は自由。教会音楽なのですが、クリスチャンでない人が自分なりの解釈で表現するし、ボサノバ、ロックありのいろんなジャンルが集結した複合体なんです」とその魅力を話す。
 そして平野さん自身「歌っていて自然に温かい感謝の心がわいてきます。日本語では照れくさくて言えないような内容も、英語だと表現しやすいということもあるんでしょう」という。
神を賛美する歌詞を自分たち、あるいは家族に置き換えて全身を使って表す。温かい気持ちになる不思議な魅力があり、歌っているうちに涙を流す人も出てくる。
 発表の場はさまざま。11月3日に県民文化ホールで開いたコンサートは、だいぶ前にチケットは完売。当日は岩下先生のご主人でプロデューサーの浩二さんが舞台設定を担当、娘の莉澄(りずむ)さんも一緒に歌った。身内だけのクリスマスパーティーはカラオケボックスで、それぞれの十八番を歌い、最後はゴスペルで仕上げる。バーベキューも楽しみな一つだ。
 そんな平野さんは最年長歌手。「若い人が普通に付き合ってくれるので気が楽なんです」といえば、岩下さんは「見守っていただいているような安心感があります」と包容力に一目置いている。
 「大きいコンサートはきついですが、月2回のレッスンは楽しんで楽しんで続けたい。家でもテープを持ち帰って毎日声を出しています」という平野さんに対して、ご主人も全面的に理解をしてくれている。声楽家の平野忠彦氏を叔父に持つ平野さんはコンサートの舞台で時には静かに、時には少女のようなあどけない笑顔いっぱいを振りまきながら、体中で躍動していた。

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