その9 終末期医療について(1)
戦争を経験した日本人は、死と直面する中で絶えず死をみつめてきました。戦後、死という言葉をタブーとして遠ざけ、テレビでも殺人の場面を放送しないように配慮し、病院内でも死という言葉を意識的に使わない時期がありました。
「死」をみつめることと「生」をみつめることは裏腹で同じ意味をもちます。最近の不幸な報道を毎日のように見ていると、死とか生を考えることが無くなって来たために、命の尊さ、大切さを忘れているように思います。
昭和20年代後半頃には、自宅で最後を迎える人が 約7割5分を占めていましたが、今では約2割となっております。身近な人の死に接することが少なくなったことも関係がありそうです。
さて、人の最後を看取る医療を終末期医療と言います。現在、終末期医療、緩和医療、ターミナルケアー、ホスピスケアと様々な言葉が使われていますが、緩和医療とホスピスケアは癌の人に限られますが、他は同じ意味だと思って良いと思います。私が緩和医療に関心を持つようになりましたのは、今から約20年前です。当時、癌は不治の病で、とても苦しくものすごく痛いと恐れられていました。医者は、癌の末期になると手の打ちようが無い状況で、何か良い治療法がないものかと模索しておりました。
そんな時、ホスピスの考え方が日本にも紹介され緩和医療が始まり、関心を持つようになったのです。世界中で癌を何とか無くそうと様々な対策が計画され、治療、診断さらに原因の究明に対する研究が盛んに行なわれました。1979年、癌遺伝子が発見された時には、これで癌も不治の病ではなくなると新聞に大きく掲載されましたが、その後1992年、癌抑制遺伝子が見つかり、その後混沌としてきて遺伝子の解析もまだ不十分のようです。
癌の三大療法の外科手術も 拡大手術なのか縮小手術なのか決まりかねているようです。そして他の抗癌剤治療、放射線治療も確立されているものは少なくまだまだのようです。
しかし、緩和医療の分野は少しずつですが前進しております。それは世界保健機構(WHO)が積極的に取り組んで医療として緩和医療を世界に広げてきたからです。一番大きなことは、モルヒネを痛みのコントロールに対して使用することを認可したことです。痛みに恐怖を抱いていた癌患者さんはその不安を消し去ることができる様になったのです。
さらに、症状のコントロールを目的とした緩和医療が患者さんのQOL(生活の質、量)を高めて痛みなどで苦しむことも少なくなり、以前よりわずかですが延命するようになったのです。そればかりでなく医療全体にも大きな影響を与えてくれました。それは病名の告知が拡がったことです。告知という言葉は個人的には好きでないので使いたくはないのですが、患者さんに癌だと話すことができる様になり、患者さんもそれを聞くことができるようになって、両者間に嘘が無くなりました。嘘をつかないことが信頼関係の第一歩ですから、とても良いことだったと思います。
自分の病気を知っていることで、患者さんにどんな影響がでると思いますか? 2つのことが考えられます。1つ目は病名を知り、気持ちが落ち込んで免疫力が低下する。2つ目は反対に前向きに生きる意欲が出て免疫力が高まること。癌と共存していくには、免疫力を高める必要がありますので、どちらが良いかは明白ですね。
次回は在宅ホスピスについて書きたいと思ってます。