第8回:なんにでも興味、そして一流
97年短歌、98年小説部門で県芸術祭賞・実賞、02年には前年に変わってスタートしたやまなし県民文化祭で小説部門の祭賞・実賞に選ばれている。
そして今、3年前から始めたボタニカルアートにのめりこんでいる。山梨文化学園で岡村芳江さんの指導を受けながら、透明水彩絵の具を重ねていく。「私がつくる短歌には花がいっぱい入っているんです。いつか自分で書いた絵を添えたいと思ったのがきっかけです。絵の具をぼかしながら濃淡を出し、紙を染めるという感覚で実物に近づける。その過程が魅力なんです」と、こちらにも征服欲がありあり。
五味さんの創作は、事実に基づいていることが多い。受賞した小説も、幼い息子の不慮の死と姑との確執。中年夫婦の離婚と家を出た妻の新生活が描かれており、実体験がベースになっているのだという。
ボタニカルアートも観察したままの姿に美しさを加える技法で、現実を大事にする。
だから心に留まったことを無秩序にノートに控えておく。『野菜の種類、産地、旬』『りんごのシナノスイートは甘いつがるとしゃきしゃき感のふじを掛け合わせたもので、そのつがるはゴールデンデリシャスと紅玉から、ふじは国光とデリシャスから』『雹(ひょう)は夏で直径5mm以上、霰(あられ)は冬で5mm以下』−という具合。これが五味さんの知恵袋だ。
同世代の人たちには「自分のことを生きよう」と言いたい。「嫌なことはしない。もちろん相手にも。自分を殺してまでしようというのは必要ない。自分を大事に楽しくしていれば。息子もそれでいいんじゃないと言ってくれています」。
近頃やっと2,3泊の旅行に行けるようになった。一緒に付き合ってくれる友達も多い。そして幸せをさらに大きくしてくれているのが、朝自宅から職場に向かう時、左手に八ヶ岳と凛とそびえる甲斐駒、農免道路を右折すると大きな富士山に迎えられることだという。「これだけは文字にまとまらないんです」。情操を磨くのに最高のシチュエーションだ。