新緑に包まれ歩いてみる
『 草 枕 』

1605「山路を登りながら、こう考へた。智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」『草枕』の有名な冒頭だ。執筆から100年以上経っても色褪せない言葉だ。明治になり西欧化が押進み、現在もその延長線上に位置していることを感じる。▼五月になるとこの本を思い出す。芸術家が春の里山を旅しながら、そこで会う人々や自然を通じ、芸術(仕事)や生き方について思いを巡らす。ぽかぽか日和の山道を散策しながらあれこれ考えている小説だ。合理化と効率化を追求して、せわしなく過ぎてしまう毎日はこの時に始まったのかもしれない。そんな中でも自分をしっかりと保って生きること。世の中の変化すること、しないこと。これからのこと。そんなことをゆっくり考えてみるのに最適な季節でもある。▼遠くまで行かなくてもすぐそこには湯村山や愛宕山がある。休日にはこの本を片手に新緑の山路を歩きたい。

『 草 枕 』
夏目漱石(著) 新潮文庫 430円(税別)