旧町名を復活させたい 番外編~遊亀公園附属動物園 中編~


甲府市民にとって馴染み深い、遊亀公園附属動物園。
しかし改めて考えてみると、なぜ県都甲府市の中心地に動物園があるのでしょう。
しかも大正8年の開園ですから、歴史ある動物園と言えます。
皆さんは動物園の由緒を知っていますか?
 今回も先月に引き続き、2019年に100周年という節目を迎えた、甲府市遊亀公園附属動物園の歴史を紐解いていきたいと思います。

私は、被災した自宅をそのままにして、主人と共に動物園へ駆けつけた。
園の隣の一蓮寺の前には、爆死した人たちの死体が次々に収容されていた。
1歩、動物園に入ると、焼死した鳥類、小動物、傷ついたサルが木陰にいたり、園内を右往左往していた。
辺り一面焦土と化して、はるか向こうに甲府駅が見える。
悲惨な光景である。

※山梨日日新聞の昭和50年7月1日付に掲載されている、小林承吉園長の奥様、いさをさんの手記「私の50年」より抜粋

空襲間もないの太田町。右手に見えるのが公園。

空襲で焼け出された人々は、必死に住居を確保した。

終戦間もない太田町と緑町の交差点(現在の青沼通り)。
看板が英語表記となっている。

小林園長は、悲惨な光景を目の当たりにしながらも、早々に動物園の再建を目指しますが、庁舎も焼失している市の立場としては、焼け出された人たちの住宅確保や、町全体の復興が最優先です。
しかし、「私財を全て投じても動物園を建て直してみせる」という園長の決意は固く、公園に焼け残った樹木を活用し、自ら公園の再興活動をはじめます。
ところが、焼け出された人たちも必死です。
バラック小屋を建てるため、夜中にこっそり公園の木を切りに来る人たちが現れます。

小林一家は焼け残った公園の樹木を守るべく、動物園のライオン舎へと引っ越し、夜間の見守りを行いました。

昭和20年の秋。
小林園長は市から無償で動物園を譲り受けます。
早速県内の金物屋をめぐり歩き、おりの材料を集めたり、戦前から付き合いがあった全国の動物園を回り、動物達を求めました。
その甲斐があり、チャボ、サル、シカ、イノシシ、クマなどが揃い始めます。
イノシシに関しては県内で捕獲し、繁殖させて、全国の動物達とトレードをしていたようです。

昭和25年6月24日。
アメリカのユタ州ソルトレーク市にある、ホーグル動物園から雌のライオンが送られ入甲します。
甲府駅に着いたライオンは、馬車で動物園まで運ばれましたが、沿道には春日小学校の児童らが出迎え、市内は歓迎ムード一色。
動物園ではライオン祭が開催されました。

特設ステージで日本舞踊や子ども達の演芸が披露されたり、小中学生を対象にしたライオンの粘土工作コンクール、名前の募集も行われました。
ライオンが甲府へ来たというニュースは、全国的にも話題になったようです。
というのも、戦後間もないこの年、ホーグル動物園から送られた貴重な3頭が分配されたが、上野と京都、そして甲府だったのです。
なんで3番目に甲府が入るの?と不思議に思うのは私だけでは無いはずです。
このエピソードの裏には、ライオンと交換のため、日本特産のツキノワグマやタヌキ、イノシシ、そして甲斐犬をアメリカへ送った小林園長の尽力がありました。

昭和25年7月15日。
雌ライオンの名前は「富士子」と決まり、園内で命名式が行われます。
そして、全国の動物園から富士子を貸して欲しいという申し出が殺到する中で、宝塚動物園からの「近くに子象が入るので、その子とトレードする形で貸して欲しい」という依頼を受けることにします。

小林動物病院で大切に保管してある富士子さんのポスター。

宝塚へ富士子を送り届けた小林園長のご子息、小林君男獣医は、その熱烈歓迎ぶりに大変驚きました。
駅の改札口には、それまであった宝塚歌劇団のスターを押しのけ、富士子の大型ポスターが貼られ、小旗を振る子ども達や身を乗り出して富士子を観ようとする大人達に囲まれたとのこと。

富士子は、戦争で傷ついた人々の心を癒す力を持っていたのだと窺えます。
富士子とのトレードとなった子象は、昭和26年7月15日に甲府へ到着します。
名前は「ソムヌツク」。3歳のオスでした。

僅か半年しか甲府には居なかったが、市民から絶大なる人気を得た「ソム妨」ことソムヌツク。

同28日、甲府動物園で「象君歓迎動物祭」が開催されます。
今では考えられませんが、華やかなベールを羽織ったソムが引き連れる動物隊の市中大行進が行われたとのこと。
遊亀公園を出て暫くすると、ソムは突然向きを変え、沿道の果物店へと向かいます。
子象とはいえ2トンほどの体重があるソムを制御出来る訳もなく、手綱を握る小林獣医も引きずられていきました。
行進を観に来た市民が見守る中、ソムは果物店の店先にあるバナナやリンゴを鼻でくるっと巻き上げ食べ始めます。
冷や汗をかく小林獣医。
しかし市民には大ウケです。
果物店の店主も「こりゃあ縁起が良い」と山盛りのリンゴをプレゼントしてくれました。
(12月号へつづく)

文:川上明彦

旧町名を復活させたい 動物園100周年パネル展

11月10日(日)。甲府市遊亀公園附属動物園開園100周年記念として開催される「げんき ゆうき 100周年 ZOOっといっしょ ありがとうウィーク」の企画として、「旧町名を復活させたい 動物園100周年パネル展」を開催します。
動物園の歴史を振り返りながら、甲府の旧町名の風景もご覧いただける内容となっています。
また、動物園で募集している「思い出フォト」の展示と投票も、同会場にて行います。
上位2作品は令和2年度の入園チケットデザインに採用。ご来場いただき、ご投票ください!

日 時:2019年11月10日(日) 10:00〜16:00
会 場:甲府市総合市民会館 1階 多目的室(甲府市青沼3丁目5-44)

参考資料:山梨日日新聞(昭和62年連載「甲府市遊亀公園附属動物園70年の歩み」)、山梨百年(山梨日日新聞社)、Wikipedia