聞いてびっくり玉手箱
『忘れられた日本人』

book1610「中心街の昔はよかった」という話はどれも似た話だが、店主の遍歴はそれぞれに個性的だ。以前、早川ベーカリーの小川シェフに話を聞く機会があった。富山県氷見市生まれ。幼少期の港町の風景、東京での修行、甲府の店舗での試行錯誤とバラエティに富む。中でも、氷見市のお父様の武勇伝(?)は驚きの連続で聞き飽きなかった。▼今回紹介する本は上記に通じる本である。昭和初期に全国を巡り、そこで出会った老人達の話を書き留めたものだ。中でも「土佐源氏」の章は秀逸。橋の下に住む盲目の老人に聞いた一代記なのだが(そんな所にまで聞きに行くのだ!)、老人の話は非常に上手く、臨場感溢れる語り口で、その場に一緒に居合わせた気持ちになる。破天荒で猥雑な生き様は思わず笑ってしまう出来事の連続だ。▼時代と共に変わる生活スタイル、無くなってしまった情景、それらを閉じ込めた話は過去の日本にタイムスリップした気持ちにさせ、その驚きの連続は心を掴んで離さない。

『忘れられた日本人』
宮本常一(著) 岩波文庫 800円(税別)