豊かな時間を取り戻せ
『モモ』

1611時間貯蓄銀行の外交員は時間どろぼう。生活の無駄な時間を算出し、その時間を預けて長生きすることを提案する。合理的な生き方を突き詰めるうちに、余裕を失くした住民は生気を失っていく。もちろん、これは現代を照射する。私達も将来を思って勉強や仕事に時間を削る。それ自体は尊い事だが、一方で人生は一寸先が分からない。思い描いた将来にたどり着けない場合もあるし、気がつくといつまでも次の将来の準備に向っていたりする。「今」を失い続けて私達はいつ自分の人生を生きるのか。▼10月29日に甲府銀座通りで「こうふのまちの一箱古本市」が開催される。市民が一箱分の蔵書を持ちより、それを通してコミュニケーションをはかるイベントだ。ここにいると、とても贅沢な時間を実感する。一日ゆっくりと本を読み、のんびりと会話する。現代においては、合理的の対極にあることが人間らしい感覚や時間を取り戻してくれる気がする。

『モモ』
ミヒャエル・エンデ(著)岩波少年文庫 800円(税別)