気持ちのいい秋の散歩の方法『季節の記憶』
秋は気持ちいい季節です。今回紹介する本は、移ろいゆく季節を感じながら、ゆるやかな日常を描いた小説です。▼舞台は鎌倉、主人公の父と園児の息子、それに隣に住む便利屋の兄妹を中心にした物語です。なにも大きな事件は起こらないのですが、生活の中にある些細な発見とともに、感じたり、会話したり、考えたりしながら時が流れていきます。海の上にポッカリと浮かんで、波に揺られながら文が進んでいくようです。▼スリリングな展開はないのに、不思議と読む手を止めることができません。そうなんです。凄い文章力なのです。四人の人柄がとてもいいのと、時折登場する個性豊かな人たちがアクセントを加えて、一緒になって縁側で和んでいるような感じで、小説が終わるのが残念にも感じる本です。▼ファンも多いためか、続編も出版されました。著者は山梨県出身で芥川賞も受賞しています。この作品では平林たい子賞、谷崎潤一郎賞を受賞しました。
『季節の記憶』
保坂和志(著)
中公文庫 743円(税別)