甲府の過去と未来と、それを思う現在と 『甲府市の昭和』
生前の風景ばかりなのにどこか懐かしい。写真の片隅に現在に繋がる記憶の断片があるからだ。それが引き金になって、過去の甲府にタイムスリップする。伊勢湾台風で破壊された銀座通りのアーケード、山交デパート上の遊園地、ボロ電が走る貢川の風景、眺めていれば家族の誰かが覗きこみ、そして会話が始まる。▼「昔はこうだった」「これは今のあそこだよ」と、記憶を手繰り寄せる。この本は甲府に住む全ての人にとっての話題の共通項があるのだ。趣味が細分化して、それぞれが勝手にスマホの中に自分を没入させる昨今、これほど分け隔てなく皆で同じ話題をしたことがあっただろうか。さらに時代を遡ると、戦前の瀟洒な佇まいのオリオン通りや、戦後に焦土と化した市街地の様子が収められている。甲府が刻んできた歴史だ。▼私達はこれからどこへ向かうのか。そう思う時、かつて描いた甲府の未来のイメージは今のこの状態だったのだろうかともまた思う。
『甲府市の昭和』
樹林舎 9,250円(税別)