2008年3月号 桃畑
漁師の男が谷川に沿って船を漕いで遡っていくと、桃の花が一面に咲き乱れる林が両岸に広がった。さらにその奥、人が一人通り抜けられるだけの穴を抜けると、驚いたことにそこは立ち並ぶ農家も田畑も池も、桑畑もみな立派で美しく、みな微笑みを絶やさず人々が行き交う郷があった…。
桃源郷は中国における理想郷。俗世間から離れ、山水の中で仙境に遊んだり素朴な農耕をしたりできる世界である。逸話によれば、この郷で歓待を受けた後、もとの世界に戻った漁師の男を含め誰もが、二度とこの郷に行くことはできなかった。
梅、桜、桃…と、陽光の暖かさが増すとともに春がやってくる。甲府盆地の東にピンクの絨毯が現れる季節がやってくる。こんなにも美しい郷に私たちは棲んでいるのだ。