文化的な環境は住民が創るのだ『日本映画史110年』
1895年にリュミエール兄弟が映画を発明して120年。この僅かな間に映画は影響力の大きさにより政治や戦争に利用されつつ、その一方では芸術にまでその可能性を高めた。日常と隔絶した暗闇の中での体験。それは映画館だけの味わいだ。成島出、矢崎仁司、富田克也等々、山梨から数々の映画監督が生まれたのも、中心街にその環境があったからかもしれない。▼特に甲府中心街に関わりがあり、日本映画史の大きな足跡といえばマスムラ時計店にゆかりのある増村保造だ。「清作の妻」「妻は告白する」「兵隊やくざ」等々、社会の深層にある問題を主題に据え、人間の情念が絡み合いながら、剥き出しの生きる姿が映像から立ち上る。現代に通じる普遍性があるからこそ今でも衝撃を受ける作品だ。▼映画館は街場に欠かせない施設の一つだ。創造的人物が育つためには、圧倒的な体験の環境を街場に残し、そこに集い会話し、清廉さも猥雑さも混在した刺激的な空間を住民が意識的に育てる必要がある。
『日本映画史110年』 四方田 犬彦
集英社新書 780円(税別)