旧町名を復活させたい ~佳名(5)~

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か‐めい【佳名】
1.いい名。縁起のいい名。
2.いい評判。名声。
※国語辞典より

 平成27年は乙未(きのとひつじ)の年。前回の乙未は昭和30年で、日本の高度経済成長が始まった時期となります。特に昭和29年12月〜32年6月までに発生した爆発的な好景気を神武景気と呼んだそうで、私たちの甲府も活気に溢れていました。ちなみに神武景気とは、日本初代の天皇とされる神武天皇が即位した年(紀元前660年)以来、例を見ない好景気という意味で名づけられたとのこと。


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▲現在の甲府駅南口

 上の写真はその好景気だった頃の甲府駅南口の様子ですが、とても終戦から約10年後とは思えないですよね。橘町と呼ばれていた当時の甲府駅周辺も甲府城を開放した土地で、桜町や紅梅町、常盤町と同じく明治8年に名付けられた佳名です。甲府城を含む大きなエリアではありますが、明治22年の市制施行で甲府市の所属となった時には、15人ほどの人口しかいませんでした。その後、城跡北部を甲府停車場に充てることが決まり、明治36年に中央線が開通すると橘町は甲府市の玄関口となりました。しかし、まだまだ当時の中央線は利用客が少なく、同じく開放された土地にできた日向町や花園町、弥生町との境界線も判然としない状況が暫く続いたとのこと。

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 こちらは開業10年目を迎えた甲府停車場です。汽車が到着した後の様子らしいですが、確かに利用客が少ないと感じますね。どうやら明治42年に橘町にあった甲府監獄を池添町(現在の朝気1丁目)に移し、商業地に改めたころから、甲府駅周辺の開発が進み始めたようですね。大正時代の地図を見ると、甲府城の敷地に「山梨県立中学校」と記されています。こちらは現在の甲府一高で、昭和3年に御崎町へ移転するまでこの地に存在しました。そして同校移転後の昭和5年、跡地に山梨県庁が新築落成し、現在もその場所に存在しています。この当時はまだ西側にお堀があった訳ですが、県庁の新築落成の頃には埋め立てられ、戦後は平和通りへと変化していくことになります。ちなみに大正9年の橘町は人口が約1,480人とのこと。約30年でこんなにも人口が増えるとは驚きです。

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▲現在の山梨県民会館前

 さて、時代を高度経済成長期に戻します。昭和30年代の甲府市は、さまざまなインフラが整備されました。上の写真は昭和32年に完成した山梨県民会館です。左手前にボロ電が見えますね。

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 こちらはボロ電が走っていた山梨県庁と県民会館の間に中央線を跨ぐ陸橋の建設工事がはじまった昭和38年の様子です。どうやら中央線の開通当時は、西方の横沢通りと東方の愛宕町にしか縦断する術が無く、南北の往来は相当不便だったようで、南側の発展に比べて北側は閑散としていました。明治後期になり朝日町と日向町(現在の北口3丁目、東京ガス付近)に踏切が出来たことで多少は緩和されましたが、甲府城の敷地内に完成した陸橋は甲府市民の生活に大きな影響を与えたと思われます。人口の増加やモータリゼーションが急激に進み、人々の移動手段や移動にかける時間が大きく変わったこの時代は、全県的に道路交通網が大きく変化したでしょうから、さまざまな場所で町の景色が大きく変わったのだと工事中の写真から想像できます。ちなみに1世帯当たりの自動車普及台数で山梨県は1.539台で全国11位(平成26年3月現在)となっています。県民にとって「マイカー」は生活に無くてはならない存在ということになりますが、その文化もこの時代がはじまりなのですね。ただ、今後の高齢社会を思うと、マイカーだけではなく、公共交通機関の充実も必要です。さすがにボロ電の復活は現実的と思えませんが、個人的には甲府市内を走る路面電車を見たいです。路面電車って風情がありませんか?

 橘町は明治から大正、昭和、平成と、時代の移り変わりと共に県内で最も大きく変化した町のひとつではないでしょうか。しかも、甲府市民であれば誰もが一度は訪れている場所ですし、思い入れの強い人も多いでしょう。小江戸と呼ばれた甲府城下町が平成の世を迎え、更に今後、どう町づくりをしていくべきなのかを考えるうえで、知っておかねばならない歴史なのだと感じます。現在、甲府駅南口の再開発が始まっていますが、まずは甲府市民として関心を持ちたいと思います。

文:川上明彦

<citteruke 甲府駅南口周辺地域修景計画>
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 皆さんは甲府駅南口周辺地域修景計画策定県市共同事業をご存知でしょうか?
この事業は甲府駅南口周辺地域の景観や都市機能を向上させることを目的にしており、約600m四方のエリアが対象となっています。かなり広いエリアが対象となっていますが、その中にある南口駅前広場の改修は「歩行者に優しい 山梨らしさが感じられる広場づくり」がコンセプトとなっています。最終的なイメージ図はまだ未完成ということですが、タクシープールを駅前広場から移設し、憩いの広場にする案などが出ているようです。甲府市民として注目していきたいですね。

■参考資料:甲府街史、山梨百年、甲府市統計書、Wikipedia。