生命のきらめき
『川瀬敏郎 一日一花』

もうすぐ春です。あたたかくなると、眠っていた植物が目を覚まします。土がふくらみ、新たな生命が芽吹きます。大地の記憶をわたしたちに伝えてくれる草花たち。耳を澄ませば、その植物がつないできた太古から今に至る話を聞かせてくれるようです。▼そっと傍らに立ち止まり、しゃがんで、話しかければいいのですが、生活はわたしたちを放っておいてくれません。知らず知らずのうちに、時間に押し流されていきます。一つの花を正面から見つめ、黙ってその前に座り続ける時間。何も生産しないし、何も生み出さない時間。何の役にも立たない無駄な時間。しかし、それこそが私たちが失くしてしまった大切なことかもしれません。▼三百六十五日、毎日、花をいけつづけることを通して、一本の植物がもつ生命の輝かしい姿、美しい立ち姿をこの本は伝えてくれます。いま生きている時間とはなにか、静かに力強く花は問いかけてきます。

『川瀬敏郎 一日一花』
川瀬敏郎(著)
新潮社 3,500円(税別)