時代を超える味わい
『ずるずる、ラーメン』

1503中心街に昔からある食堂のお話です。(お店の意向で店名は載せませんが、気になる方は春光堂まで。)私にとっては幼少の頃から日常に溶け込んでいるお店です。甲府にやってきた友人が私に会うと開口一番「今、食堂に行ってきたんですけど、凄いんですよ。正面から見た佇まい。中に入るとレトロでありながらどこか東アジアの異国情緒を感じさせる雰囲気。昔から大事に使い続けてきた椅子やテーブル。奥の厨房からのれんをくぐってくる接客の感じ。タンメンの味とお手頃な価格。パーフェクトです!」と、興奮さめやらぬ話しぶりです。「うん、確かに確かに。」と聞いていて、ふと感じることがありました。それは「ほっとできる安心感はどこからくるのか」ということです。時代の流れはどんどん早くなり、ややもすると情報に振り回されて浮足立ってしまいます。一方でこちらのように、高度成長期、バブルのような浮かれた時代、現在の不景気が長く続く時代でも、本来の姿を大事にしながら、時代と共にゆっくりと変化してきたお店があります。地域の安定感と、そこから生まれる人々の穏やかな心は、そこにずっと存在し、寄り添ってくれるお店から生まれるのかもしれませんね。これからの時代に何を大切にするべきかを教えてくれる気がします。

『ずるずる、ラーメン』
江國香織ほか(共著)河出書房新社 1,600円(税別)