2008年9月号 大輪の菊

2008.09

 「~まア綺麗な野菊、政夫さん、~私ほんとうに野菊が好き」「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き~」「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」「民さんはそんなに野菊が好き~道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」~「政夫さん~私野菊の様だってどうしてですか」「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」「それで政夫さんは野菊が好きだって~」「僕大好きさ」……
 『野菊の墓』伊藤左千夫の小説。15歳の少年・政夫と2歳年上の民子との淡い恋の物語。……キクは日本で最も多く栽培されているといっても過言ではなく、春の桜に対して秋のキクは日本文化を象徴する花である。
 キク科の植物は被子植物のなかでは最も繁栄しているものの一つで、世界中に2万種以上。多くが○○ギクといった名を持つ。日本には350種ほどが自生し「野菊」と呼ばれるものは多数。政夫と民子の野菊は、丹精された大輪のキクとは対極の、素朴で可憐な花だったに違いない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

コメントする