歴史は書き手によって大きく変わる。
『 完全版 名君 保科正之 』

1607愛宕山のすそ野に円光院はある。高台から見る甲府の眺望は素晴らしく、鳥のさえずりが聞こえ、緑が映える場所だ。信玄公の正室である三条夫人の墓は本堂の裏手を少し登ったところにある。この清清しい場所を訪れる度に、信玄公の夫人への愛情はいかに深かったことだろうと思う。境内には快川国師の言葉を書いた立て札があった。「西方一美人 円光如日 和気似春」美しく穏やかな三条夫人の人柄を想像させる。住職に夫人に関する色んな話を聞かせてもらった。その中で印象深かったのは、夫人の子供もまた立派であり、次女の見性院はのちに名君保科正之の幼少期の養育係をしたという。▼三条夫人というと、小説やTVの影響で湖衣姫に押され、芳しくないイメージが先行してしまうが、別の面から見ると全く違う人柄が浮かび上がる。私たちは一方の情報(史実)を与えられると、ついそれを鵜呑みにしてしまうが、物事にはなんにでも別の面が存在する。この本はそんなことも教えてくれる。

『 完全版 名君 保科正之 』
中村 彰彦著 河出文庫 880円(税別)