第19回 鎌倉彫に伝統と個性を織り込む

北村栄子さんの雅号は、梢華。鎌倉彫に打ち込んで33年というから、人生の半分を伝統工芸とお付き合いしてきた。今は梢華会代表として仲間8人の指導をしながら、自らの作品作りに精を出している。
 出会いは「絵が好きで描いていたのですが、自信がなくなったところへ、妹が鎌倉彫の教室を教えてくれたのです。子育ての区切りがついた頃でしたが、生徒がいっぱいで1年間待ちました」と振り返る。その師は石原秋水さん。長年研究を重ね、誰にでも彫ることから塗りまでできるように自然乾燥の塗料を使う技法を編み出した先生だ。


 木地はカツラ、ホウ、ヤナギ、米ヒバなど。まず下絵(図つけ)を描き、深く彫ってバックを落とすような時はノミを使って荒彫りをする。絵柄を浮き立たせるのは、各種の彫刻刀を使うが非常に根気のいる作業だ。彫りで気をつけなければならないのは逆目ではなく順目に仕上げること。 やすりをかけて、彫りが完了すると次はいよいよ塗りに。油性のカシューという塗料を使い、24時間後に耐水ペーパーをかける。この作業を10~12、13回繰り返す。箱ものなら面ごとにするため1ヶ月は優にかかってしまう。この間、塗りは薄いのから濃い色へと進む。
 カシューの良さは、漆のようにかぶれることなく、熱にも強く使い込めば味が出ることだという。
 「彫り始めて一つ一つ形になって出来上がっていくのが張り合い。でも地味で苦しい作業ではあります」。発表会は5年に1度のペースという。気長な作業のため短期間には作品が出揃わないのだという。

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 鎌倉彫は中国から伝来した彫漆品の影響を受けて13世紀に生まれた。

草創期は主に禅宗の寺で使われる仏器や什器だったものが、茶道の普及により茶道具の制作も活発になり広まっていった。明治になって鎌倉が貴族社会の別荘地になったこともあって、多くの理解者や客を得ることができ、日常生活にも入り込んでくるようになったといわれる。
 梢華さんはこれまで、そんな長い間に育まれた伝統を参考にして来たと言うが「今後は私だけのオリジナリティーを出し、伝統的な技法と融合できればと思っています」と抱負を語ってくれた。
 箱物や平板だけでなく、一輪挿しやペンダントなどがすでに仕上がっている。
 作品は結婚祝いなどに知人が欲しがるので、手元には少なくなり「展覧会の時困ってしまうのです」と引く手あまたの様子。
 今取り組んでいるのは「テレビのデジタル化に向けて、買い換えなくてはなりません。それ用に置き台を作っています。相当大きなものになりそうです」。過去3回の展覧会は好評だった。第4回が待ち遠しい。

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